60歳ベテラン遺品整理士に聞く:現場の苦労と遺族の心の整理

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親の遺品整理に直面し、何から手を付ければよいのか悩んでいませんか?今回は、遺品整理の現場を20年以上見続けてきたベテラン遺品整理士の田中玲子さん(60歳)にお話を伺いました。現場での苦労やトラブル事例、そして遺族の心の整理について、実際のエピソードを交えながら語っていただきます。

遺品整理士の自己紹介:経験と仕事への想い

Q: 本日はよろしくお願いいたします。まずは田中さんの自己紹介をお願いします。遺品整理のお仕事に携わってこられたご経験や、この仕事に対する想いを聞かせてください。

A: よろしくお願いします。田中玲子と申します。私は遺品整理の仕事を始めてから約25年になります。もともとは清掃会社に勤めていたのですが、自分の両親を見送った経験をきっかけに、故人が遺した品を整理するお手伝いを専門にしたいと思うようになりました。以来、この25年間で数百件以上のご遺族と向き合い、遺品整理のお手伝いをしてきました。

遺品整理士という仕事は、単に物を片付けるだけではありません。ご遺族にとっては、一つひとつの品物が思い出のかけらであり、故人とのつながりそのものです。ですから、私は常に「これは単なる不要品ではなく、大切な思い出なのだ」という気持ちを忘れずに作業に臨んでいます。遺品整理を通して、ご遺族が故人との思い出を大切に胸にしまい、新たな一歩を踏み出すお手伝いができれば――それが私にとって何よりのやりがいです。

インタビューに答える60歳ベテラン遺品整理士

遺品整理の現場での苦労:心身への負担と遺族の感情に寄り添う

Q: 遺品整理の現場では、どのようなご苦労がありますか?やはり肉体労働の大変さに加え、遺族の方の悲しみに触れる精神的な負担も大きいのではないでしょうか。

A: そうですね。まず肉体的な面では、やはり大きな家具や大量の荷物を運び出す作業はかなりの重労働です。古いお宅だと埃が積もっていたり、長年開けていなかった物置きを整理することもあります。私も60歳を迎えて体力的にきついと感じることもありますが、それでも「ここをきれいにして母を安心させたい」という遺族の方の想いを聞くと、不思議と力が湧いてくるものです。

一方で、精神的な負担も確かにあります。遺品整理の作業中、ご遺族が思い出の品に触れて涙を流される場面には何度も立ち会いました。たとえば、押入れから出てきたアルバムを手に取った娘さんが、お父様との思い出話を始めて途中で言葉に詰まり、静かに泣き崩れてしまったことがありました。そういう時は無理に作業を進めず、一緒にその写真を見ながらしばらく思い出に浸っていただくようにしています。私自身も胸が締め付けられる思いですが、ご遺族の心に寄り添うことが何より大切です。

また、ご遺族の中には、悲しみだけでなく罪悪感を抱えている方もいます。「大切な父の物を捨ててしまうなんて申し訳ない」というお気持ちですね。そのような場合には、「ゆっくりで大丈夫ですよ」と声をかけたり、「形あるものは無くなっても、思い出は消えませんよ」とお伝えするようにしています。遺品整理士として、物を整理するだけでなく、心を整理するお手伝いをすることも私たちの大切な役割だと思っています。

押入れから出てきたアルバム

よくあるトラブル事例:家族間の意見の相違と遺品の価値をめぐる問題

Q: 遺品整理の際に起こりがちなトラブルにはどのようなものがありますか?家族間で意見が食い違ったり、「これは捨てるには惜しい」といった遺品の価値をめぐる問題など、実例があれば教えてください。

A: 遺品整理は故人とのお別れの時間でもありますが、同時にご家族にとっては現実的な判断を迫られる場面でもあります。そのため、ご家族間で意見の相違が生まれることも少なくありません。

よくあるのは「何を残して何を処分するか」で意見が分かれるケースです。たとえば、以前お手伝いしたご家庭では、お父様が生前集めていた大量の本の扱いをめぐって娘さんと息子さんの意見が対立しました。娘さんは「お父さんが大切にしていた本だから全部残しておきたい」とおっしゃったのですが、息子さんは「冊数が多すぎて家に置けないし、読む人がいない本は処分しよう」と主張されたんです。お互いにお父様を想う気持ちは同じなのに、形に対する考え方が違ったために口論になりかけました。

このとき私から提案したのは、「特に思い入れの強い本だけ何冊か選んで手元に残し、残りは必要としている人に譲りませんか?」という方法でした。具体的には、ご家族で話し合って形見として残す本を数冊決め、それ以外の本は古本屋さんや図書館に寄付することにしたんです。お父様の愛読書が誰かの役に立つなら、お父様も喜んでくださるだろうという思いでその方法を提案しました。結果的に、娘さんも「全部取っておくことだけが供養じゃないのね」と納得され、息子さんも「形見として何冊か残せて安心した」と穏やかな表情になりました。

ほかにも、遺品の価値に関するトラブルもありますね。たとえば故人が生前に趣味で集めていた骨董品やコレクション類。「価値があるものだから残すべきだ」と主張する人と、「興味がないものまで残しても仕方ない」という人で意見が割れることがあります。そんな時は、専門の鑑定士さんに査定してもらってから、売却するのか記念に持っておくのかを決めてもらうこともあります。価値が高いものだと知って安心する場合もありますし、逆にそれほど値が付かないと分かって「じゃあ思い出として持っていよう」という結論になることもありました。

いずれの場合も大事なのは、ご家族同士でしっかり話し合うことです。感情的になっているときほど冷静な話し合いが難しいものですが、私たち第三者が間に入ることで調整のお手伝いができる場合もあります。遺品整理の現場では、ただ物を仕分けるだけでなく、そういったご家族のコミュニケーションの仲立ちをすることも少なくありません。

趣味で集めていた骨董品

遺族の心の整理の仕方:思い出の品と向き合い、後悔しないために

Q: ここからは本日のメインテーマになりますが、遺族の心の整理についてお伺いします。田中さんは普段、遺族の方が心と向き合うお手伝いをされていますが、どのような点に気を配り、どんなアドバイスをされていますか?思い出の品との向き合い方や、後悔しないための方法など、ぜひ教えてください。

A: 遺品整理は心の整理ともよく言われますが、その通りだと思います。大切なのは決して焦らないことです。悲しみは無理に急いで乗り越えられるものではありませんから、遺品整理のペースも人それぞれでいいんです。私はご依頼を受けた際、最初に「急がずゆっくり進めましょう」とお伝えしています。一つひとつの品物と向き合いながら、「これはどんな思い出があるものですか?」とご遺族に問いかけることもあります。話すことで気持ちが整理されることもありますし、何より故人との思い出を言葉にする時間は、心の区切りをつける上でとても大切だと感じます。

思い出の品との向き合い方については、「無理に手放さなくてもいい」とお話ししています。人によっては、悲しみが大きくてまだ遺品に触れられないという方もいますし、逆に早く片付けてしまわないと気持ちの整理がつかないという方もいます。それぞれのペースがありますから、「こうしなければいけない」という決まりはありません。ただ、一つアドバイスするとすれば、「これは」と思うものはすぐ処分せず、一旦箱にしまって保留にしておくのも方法です。数ヶ月経ってからもう一度見て、それでも不要と思えたら手放せばいいし、やはり捨てられないと思えば無理に捨てなくてもいいんです。時間が経つことで気持ちが変わることもありますから、自分の心に正直に向き合ってほしいですね。

後悔しないためには、ご自身やご家族でルールを決めておくことも有効です。例えば「写真や手紙はすべて残す」「衣類はお気に入りだった数着だけ残してあとは寄付する」といった具合に、最初に方針を決めておくんです。基準があると判断がしやすくなりますし、「あれもこれも捨てられない」という混乱が少し和らぎます。先ほどの本の例のように、「大切なものだけ残し、あとは誰かの役に立てる」という発想も後悔を減らす助けになるでしょう。

遺品整理士の田中玲子

それから、よく「捨ててしまったら故人に悪いのでは」と心配される方がいますが、私はそうは思いません。物を処分しても、故人との思い出が消えることはありません。むしろ、ちゃんと遺品と向き合い整理をつけてあげることは、故人への想いをきちんと形にすることだと思うんです。例えば、先日お手伝いしたご家族は、亡くなったお母様の愛用していた着物を処分するか悩んでおられました。全部残すのは難しい量でしたが、「お母様が生前好きだったものですし、ぜひ他の方に役立てましょう」と提案し、一部はリメイクして娘さん達が形見分けとして持ち、一部はリサイクル業者さんに引き取ってもらいました。ご家族は「押し入れに眠らせてカビさせてしまうより、誰かに着てもらえるなら母も喜ぶはず」と笑顔でお話しされていて、私も本当にうれしかったです。

さらに、心の整理を進める上で大切なのは「一人で抱え込まないこと」です。遺品整理はつらい作業ですから、可能であれば兄弟や親戚、ご友人などと一緒に行ってほしいと思います。一緒にアルバムを見て思い出話をするだけでも、心がふっと軽くなることがあります。実際、私が立ち会った現場でも、ご家族が皆さんで故人の思い出を語り合ううちに、泣きながらも最後には笑顔がこぼれる、という場面を何度も見てきました。中には、久しぶりに顔を合わせたご兄弟が遺品整理をきっかけに昔のわだかまりを解きほぐし、改めて家族の絆を深められたというケースもあります。

それでも、「自分たちだけではとても…」と感じる場合は、無理をせず専門の遺品整理士に頼ることも検討してください。私たちはプロとして作業をお手伝いするだけでなく、第三者だからこそお話しやすいこともあると思います。心身の負担を減らすために、遠慮なく周りの助けを借りてくださいね。

遺品を整理する遺品整理士

遺品整理士からのメッセージ:遺族へ寄り添う温かな言葉

Q: 最後に、親御さんを亡くされて深い悲しみの中にいる読者の方々に、遺品整理士として何か温かいメッセージをお願いします。

A: ご家族を亡くされたばかりの皆さん、本当におつらいことと思います。まずはどうか無理をなさらず、今は悲しむときだということを受け入れてください。涙は心の痛みを和らげてくれる大切な働きをします。十分に悲しんで、泣いて、それから少しずつで構いませんので、前を向く準備をしていきましょう。

遺品整理は決して「悲しみを断ち切るための作業」ではありません。むしろ、故人を偲び、感謝し、そして送り出すための儀式のような時間だと私は思います。ですから、辛ければ無理に進めなくても大丈夫。心が追いつかないときは、手を止めて深呼吸し、故人との思い出にゆっくり浸ってください。

私がこれまで見てきた多くのご遺族がそうであったように、悲しみはいつか和らぎます。そして、不思議なことに、遺品整理というプロセスを通じて「やっぱり自分は愛されていたんだな」と故人の愛情を改めて感じる場面に出会うこともあります。アルバムの中の笑顔、何気ないメモ書き、残された手紙――そういったものが、きっと皆さんの心を支えてくれるはずです。

最後になりますが、どうか覚えておいてください。あなたは決して一人ではありません。 ご家族や親しい方と支え合いながら、そして私たちのようなプロの手も借りながら、ゆっくりとでいいので歩んでいってください。天国にいらっしゃるご両親も、きっとあなたのことを見守り、「ありがとう」と微笑んでくださっていることでしょう。私も遺品整理士の一人として、皆さんの心に寄り添い、少しでも力になれればと願っています。本日はありがとうございました。

遺品整理士からのメッセージ

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